微生物探索

微生物探索とは

微生物探索とは、環境中の微生物多様性を体系的に調査し、新規微生物種およびその生理・生化学的機能を発見するための科学的手法です。微生物探索は、微生物の工業的利用可能性や、それぞれの生態系における役割を解明するうえで極めて重要です。新規微生物種の発見は、医薬品開発、食品工業、化学工業など多岐にわたる分野での応用範囲を拡大します。また、微生物の生態学的な機能と役割を理解することは、生態系維持や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献します。

微生物探索
 
微生物探索の手法
微生物探索の主な手法を下記に紹介します。旧来の視覚的手法と新しい分子生物学的手法を組み合わせることで、微生物の多様性と機能をより深く理解することができます。

 
顕微鏡検査
顕微鏡検査は、微生物の形態や構造を直接観察するための手法です。光学顕微鏡や電子顕微鏡を使用して、視覚的に確認します。この手法は、迅速な診断や微生物の形態学的特徴の評価に有用ですが、微生物の同定において限界があります。

 
血清学的検査
抗体と抗原の相互作用を利用して微生物を検出する手法です。特定の病原体に対する抗体の存在を確認することで、感染症の診断や過去の感染歴を調べることができます。ELISA(酵素結合免疫吸着法)やウェスタンブロットなどの技術が一般的に使用されます。特定の病原体に対する抗体が必要なため、検出範囲が限定されます。

 
培養法
培養法は、微生物を特定の培地で増殖させる方法です。これにより、微生物の形態や生理特性を詳細に調べることができます。しかし、環境中の微生物の多くは培養が難しく、全体の1%未満しか培養できないと言われています。
例:土壌サンプルから抗生物質生産菌を探索する場合、土壌を希釈して培地に塗布し、特定の抗生物質に対する耐性を持つコロニーを選別します。

 

16S rRNA解析

16S rRNA遺伝子は、細菌のリボソームRNA(rRNA)遺伝子の一部であり、進化的に保存されているため、細菌の分類に非常に有用です。この遺伝子の特定の領域をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅し、シーケンシングすることで、細菌の同定が可能となります。

16S rRNA解析の手順

  1. DNA抽出
    サンプルから微生物のDNAを抽出します。
  2. PCR増幅
    16S rRNA遺伝子の特定の領域をPCRで増幅します。
  3. シーケンシング
    増幅されたDNA断片の塩基配列を決定します。
  4. データ解析
    得られた配列データを既知のデータベースと比較し、微生物の同定や分類を行います。

16S rRNA解析の利点

  • 特異性と感度
    16S rRNA遺伝子は、細菌の分類において非常に保存されているため、種や属レベルでの同定が可能です。
  • 培養不要
    難培養微生物も解析できるため、環境サンプルや複雑な微生物群集の解析に適しています。
  • 効率性
    従来の方法に比べて迅速に多くのサンプルを解析できるため、研究や診断において非常に有用です。

16S rRNA解析の応用例

  • 環境微生物学
    土壌や水中の微生物群集の多様性を調査するために使用されます。
    例:環境サンプルからDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子を増幅して微生物の系統を解析します。これにより、培養が難しい微生物の存在を確認できます。
  • 医学研究
    感染症の原因菌の特定や、腸内フローラの解析に利用されます。

 

メタゲノム解析

メタゲノム解析は、環境サンプル中の全DNAを抽出し、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いて解析する手法です。この手法により、培養が困難な微生物も含め、微生物群集全体の遺伝子情報を網羅的に取得することができます。

メタゲノム解析の手順

  1. DNA抽出
    環境サンプル(例:土壌、水、腸内フローラなど)から全DNAを抽出します。
  2. シーケンシング
    抽出したDNAを次世代シーケンシング技術を用いてシーケンシングします。
  3. データ解析
    得られたシーケンスデータをバイオインフォマティクスツールを用いて解析し、微生物の多様性や機能を明らかにします。

メタゲノム解析の利点

  • 包括的な解析
    メタゲノム解析は、サンプル中のすべての微生物の遺伝子情報を解析できるため、微生物群集の全体像を把握することができます。
  • 培養不要
    難培養微生物も解析できるため、環境サンプルや複雑な微生物群集の解析に適しています。
  • 機能解析
    微生物の遺伝子機能を解析することで、微生物群集の生態学的役割や代謝経路を明らかにすることができます。

メタゲノム解析の欠点

  • コスト
    データ解析が複雑でコストが高く、特定の微生物の同定には時間がかかることがあります。

メタゲノム解析の応用例

  • 環境微生物学
    土壌や水中の微生物群集の多様性と機能を調査するために使用されます。
    例:海洋サンプルから全ての微生物のDNAを抽出し、次世代シーケンシング技術を用いて解析します。これにより、海洋中の微生物群集の多様性と機能を明らかにします。
  • 医学研究
    人体の微生物叢(マイクロバイオーム)の解析に利用されます。
  • 食品
    発酵食品の微生物プロファイルの解析に役立ちます。

 

ドロップレットスクリーニング

微生物のドロップレットスクリーニングは、マイクロ流体技術を用いてピコリットルからフェムトリットルスケールの液滴(ドロップレット)を生成し、単一の微生物細胞を封入します。ドロップレット内でアッセイや培養を行い、微生物やその生産物を検出、分析や選別・分取を行う手法です。この技術は、従来のマイクロウェルプレートを用いたスクリーニングに比べて、時間、コスト、試薬の使用量等を大幅に削減できるハイスループットな手法です。

ドロップレットスクリーニングの手順例

  1. ドロップレット生成と細胞封入
    ドロップレットジェネレーターを使用して、ピコリットルスケールのドロップレットを生成し、各ドロップレット内に単一の微生物細胞を封入します。
  2. ドロップレット培養
    ドロップレット内で微生物を培養し、蛍光染色やその他の検出手法を用いて増殖や特性を分析します。
  3. 選別と分取
    ソーター等を用い、特定の特性を持つドロップレットを選別し、分取します。

ドロップレット ハイスループットスクリーニング サイクル

ドロップレットスクリーニングの利点

  • ハイスループット
    ドロップレットスクリーニングは、一度に大量の微生物を処理できるため、効率的なスクリーニングが可能です。
  • シングルセル化
    各ドロップレット内に単一の細胞を封入することで、個々の微生物の特性を詳細に分析できます。
  • 迅速かつ効率的
    従来の培養法に比べて迅速に解析が行えるため、研究や診断において非常に有用です。

ドロップレットスクリーニングの応用例

  • 環境微生物学
    土壌および水中サンプルの大量処理を実現し、難培養性微生物から新規機能や有用物質を発見することを可能にします。
  • 創薬・製薬分野
    従来のスクリーニング方法では対応できない大規模なライブラリーのスクリーニングを可能にし、微生物由来の酵素を用いた酵素製剤や抗がん剤の研究開発に貢献します。
  • バイオプロセス
    効率的な高生産性株の樹立を実現します。

シングルセルドロップレットジェネレーターDMSCSは、最先端のドロップレット技術を活用し、迅速かつ効率的なドロップレット生成と検出を実現し、微生物探索をサポートします。
マイクロ ドロップレットジェネレーター Microfluidic Droplet Generator ゲルマイクロドロップレット DMDGS NTサイエンス

 

シングルセル解析

シングルセル解析は、単一の微生物細胞を解析する方法です。これにより、個々の細胞の遺伝情報や代謝活動を詳細に調べることが可能です。シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)などの技術が利用されます。
例:単一の微生物細胞からRNAを抽出し、シーケンシングすることで、個々の細胞の遺伝情報や代謝活動を詳細に解析します。これにより、微生物群集内の機能的多様性を明らかにします。
>>シングルセル単離(シングルセル化)
>>シングルセル解析

 
参考文献

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